能登半島の奥地、里山と里海が交わるこの土地に、都市からやってきて農業をはじめた人たちがいる。地震からの復興が続く能登で、土を耕し続ける人たちの話を聞いた。
なぜ能登に移住したのか

「便利じゃないけど、豊かなんです」——そんな言葉が、能登の移住者の口からよく出てくる。スーパーまで車で30分、コンビニはない、冬は雪に閉じ込められる。それでも能登を選ぶ理由が、この土地にはある。
里山里海の景観が国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産に認定された能登は、持続可能な農業の手本として世界からも注目されている。その土地で農業をはじめることへの憧れが、移住者を引き寄せている。
里山の農業——都市とは違う時間の流れ
田んぼと畑と、海と
能登の農業の特徴は、農業と漁業が一体となった暮らしにある。田植えの時期には田んぼに入り、漁期には舟を出す。作物の種類も多様で、加賀野菜とは異なる能登独自の在来種が今も育てられている。
棚田という選択
能登の棚田は急斜面を切り開いて作られたもので、機械化が難しく、多くの作業が手作業で行われる。非効率に見えるが、だからこそ守られてきた景観と生態系がある。移住者の中には、この棚田の維持に使命感を持って関わる人も多い。
| 作物・産品 | 時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| 輪島のコシヒカリ | 秋 | 棚田で育つ少量生産のブランド米 |
| 能登牛 | 通年 | 石川県産の黒毛和牛。霜降りが美しい |
| 能登大納言小豆 | 秋 | 粒が大きく風味豊か。和菓子の材料に |
| 天然岩牡蠣 | 夏 | 能登の海で育つ大粒の岩牡蠣 |
震災を経て、土地への想いが変わった

2024年元日に発生した能登半島地震は、農業を営む人たちにも深刻な影響を与えた。棚田が崩れ、ため池が破損し、農道が寸断された。それでも、春になると田んぼに入る人たちがいた。
「土地を守ることが復興だと思っている」——そう話す移住農家の言葉には、単なる生業を超えた覚悟がある。農業を続けることで、能登の景観と文化が守られる。その実感が、困難な状況でも農業を続ける原動力になっている。
能登の食材が持つ、本来の力
能登の農産物には、工業的農業とは異なるリズムで育てられたものならではの力がある。化学肥料を最小限に抑え、在来種を守り、土の力を借りて育てる——そういう農業が生み出す食材の味は、産地に来て食べてはじめてわかる。
- 能登産コシヒカリ——棚田の水と寒暖差が生む甘みと粘り
- 岩牡蠣——夏の能登を代表する濃厚な旨み
- 能登牛——草と清水で育つ石川のブランド牛
- 加賀れんこん(能登でも生産)——独特のもちもちした食感
農業体験ができる場所と宿

能登では農業体験や農家民泊を受け入れる施設が増えている。田植え・稲刈り体験、野菜の収穫体験など、都市では体験できない一日を過ごすことができる。
| 体験の種類 | 時期 | 問い合わせ先 |
|---|---|---|
| 棚田での田植え体験 | 5〜6月 | 各農家・能登里山里海ミュージアム |
| 稲刈り・はさがけ体験 | 9〜10月 | 石川県農業公社・各自治体 |
| 野菜収穫体験 | 通年(品目による) | 各農家・道の駅 |
| 農家民泊 | 通年 | 能登半島広域観光協会 |
里山から学ぶ、持続可能な生き方
能登の里山農業が世界農業遺産に認定された理由は、単に美しい景観だけではない。自然の循環を活かした農業・漁業・林業の複合的な暮らし方が、持続可能な社会のモデルとして評価されたのだ。
都市での消費生活に疑問を持ち、「もっと根っこに近い暮らしがしたい」と感じる人たちが、能登に惹かれる理由がここにある。
能登へ行くことが、支援になる

震災後の能登を訪れることを躊躇する人もいる。しかし、宿泊し、食事をし、農産物を買うことが、地域の経済を回す直接の支援になる。観光地としての能登を楽しみながら、復興に貢献できる——それが今の能登旅行の意味だ。
- 宿泊する——地域の旅館・民宿を選ぶことで宿泊業の復興を支援
- 食べる——能登の食材を使ったレストランや道の駅で食事する
- 買う——農産物・工芸品を産地で購入する
- 伝える——訪れた体験をSNSや口コミで発信する
