能登半島の先端近く、輪島や珠洲の漁港には、震災から立ち上がり、再び海へ出ている漁師たちがいる。2024年1月の地震で港が壊れ、船が傷み、仲間を失った人もいる。それでも彼らは海に出る。「海があるから、俺たちはここにいる」——ある漁師のその言葉が、ずっと頭を離れない。

能登の漁師たちが語る「海の今」と「これから」。復興の最前線にいる人たちの声を、ここに記録する。

地震前の能登の海——豊かさの記憶

能登半島は、日本海と富山湾の二つの海に囲まれた特殊な地形を持つ。日本海側では冬の荒波にもまれた旨みの強い魚が獲れ、富山湾側では穏やかな深い海底から白エビや富山湾の宝石と呼ばれる食材が獲れる。

ノドグロ(アカムツ)、ズワイガニ、甘エビ、岩ガキ——能登の漁師たちが誇る海の幸は、全国の市場や料理人から高く評価されてきた。「震災前は、秋のノドグロシーズンには全国から引き合いが来てた」と話す漁師は多い。漁業は能登の基幹産業であり、アイデンティティでもあった。

主な漁港特産物時期
輪島漁港ズワイガニ、ノドグロ、アワビ通年(カニは11月〜3月)
珠洲・蛸島漁港能登かき、甘エビ牡蠣は10月〜4月
七尾・和倉方面牡蠣、ズワイガニ秋〜春
羽咋・志賀方面甘エビ、ノドグロ通年

2024年1月——地震が奪ったもの

2024年1月1日の能登半島地震は、M7.6という規模で半島全体を揺さぶった。漁港の岸壁が隆起・陥没し、船が打ち上げられ、水揚げの場が使えなくなった。漁師の家が崩れ、仮設住宅での生活を余儀なくされた人もいる。

「港が使えないんだから、漁に出られない。でも出ないと食っていけない」——矛盾した状況の中で、多くの漁師が2024年前半を過ごした。設備の修繕、行政への申請、仮設岸壁の整備——気の遠くなるような作業が続いた。

震災直後の漁業の状況

2024年1月の地震後、能登の主要漁港の多くで水揚げが一時停止。岸壁の損傷・設備の破損により、漁船の出入りそのものが困難になった港もあった。国や県の支援を受けながら、段階的な復旧作業が進んだ。

それでも海へ出る理由

ある輪島の漁師は言う。「俺の親父も爺さんも、ここで漁師をしてきた。海が使えなくなったからといって、それで終わりにはできない」。復旧した仮設岸壁から、震災から数か月後に初めて漁に出た日のことを、彼は静かに話してくれた。

「最初に港を出たとき、海はなんも変わってなかった。波の音も、風の感じも、震災前と同じだった。あ、海はここにいるんだ、と思った」。その言葉には、悲しみと安堵が混じっていた。

経済的な理由だけではない。漁師にとって海は、生計の場であるとともに、アイデンティティの中心だ。「漁師でなくなったら、自分が何者かわからなくなる」という感覚を、多くの漁師が持っている。

2025〜2026年、能登漁業の今

震災から1年以上が経過した2025年後半以降、能登の漁業は少しずつ復活の兆しを見せている。修復された漁港で漁が再開され、金沢の近江町市場や全国の市場に「能登産」の札が戻ってきた。

ただし、完全な回復にはまだ時間がかかる。設備の修繕が終わっていない港、人手不足、後継者問題——地震前から抱えていた課題が、震災で加速した面もある。若い漁師を育てる余裕がない、という声も聞かれる。

  • 能登カキの養殖は一部で再開。2025年秋から出荷が徐々に増加
  • ノドグロ・甘エビは水揚げ量が回復傾向。金沢市場への入荷も増えている
  • 輪島漁港の岸壁修復は2025年に一部完了。全面復旧はまだ先
  • 漁師の平均年齢は高く、後継者確保が課題として残る
  • 県や国の支援で漁船修繕・設備補助が進んでいる

能登の魚を食べることが、復興支援になる

「能登のものを食べてほしい」——復旧途中の漁師たちが、口を揃えて言うのはこの言葉だ。水揚げが増えても、買い手がいなければ意味がない。消費が戻ることが、漁師たちの生活の再建につながる。

金沢の近江町市場でも、石川県内の飲食店でも、「能登産」の食材を選ぶことは直接的な支援になる。観光で石川・能登を訪れ、現地の食を楽しむことも同じだ。ひとりひとりの選択が、復興の歩みを後押しする。

能登産食材を選ぶポイント

近江町市場や石川県内の鮮魚店で「能登産」「石川産」を積極的に選ぼう。産地表示がない場合はスタッフに確認を。また、能登への旅行・観光消費も地域経済への直接支援になる。

漁師たちが語る「これから」

「能登の海は、絶対に復活する。俺はそう信じてる」と話す50代の漁師。「若い子たちが来てくれればいいと思ってる。海はちゃんとあるし、魚もいる」。その言葉には、希望と現実の両方があった。

能登の漁業が完全に元の姿に戻るまでには、まだ時間がかかるかもしれない。しかし、海に出続ける漁師たちがいる限り、能登の魚は食卓に届き続ける。彼らの日常の積み重ねが、能登という場所を守っていく。

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