赤瀬ダム自由広場
川に降りられる芝生
夕方の五時すぎに川原に立ったら、水がまだ明るいままでした。小松市の山あいを流れる川に、砂の州ができていて、そこだけ薄い茶色に光っています。手を置くと、指の下でさらさらと崩れました。
- 126m広場の標高
- 2.9kmダムからの距離
- 650.7m大倉岳の頂上
- 1977尾小屋鉄道の廃止
この日は、尾小屋のポッポ汽車展示館から入って、大倉岳の登山口で看板を読んで、川ぞいに走りました。着いたのは赤瀬ダム自由広場。県道161号を赤瀬ダムから2.9kmほど進んだ右手にある、石川県の広場です。広い芝生と東屋と藤棚があって、川へ降りる坂に「親水広場スロープ」という名前がついていました。順番にたどります。

尾小屋の車庫に、三両が眠っていた
出発は尾小屋町でした。山あいの道を上がっていくと、木の柱と黒い屋根の大きな車庫があって、その下に赤とクリーム色の車両が並んでいます。ポッポ汽車展示館です。
ここに置かれているのは、1977年3月20日に廃線になった尾小屋鉄道の三両。5号蒸気機関車と、気動車のキハ3、客車のハフ1です。旧尾小屋駅の跡地に保管されていたものを移して、保管庫を新しく建て、2002年4月26日に開館しました。見学は無料で、開いている時間は「随時」。ただし照明が点くのは9時から17時までです。
手前には線路が二本、地面に埋め込まれたまま伸びています。車庫の前が舗装された広場になっていて、コーンが置いてありました。動く日は、この線路の上を実際に走ります。

すぐ近くに石川県立尾小屋鉱山資料館とマインロードがあります。こちらは4月1日から11月30日の9時から17時、大人500円、高校生以下は無料。水曜が休みで、12月1日から3月24日は冬期休館です。尾小屋は鉄道と鉱山がひと続きの町なので、時間があるならセットで見るところです。
登山口の看板が、山のぜんぶを書いていた
展示館から二十メートルほどのところに、木枠の大きな案内板が二枚立っています。大倉岳遊歩道の登山口です。平成十一年三月、小松市と西尾元気の里推進協議会が立てたもの。書いてある内容が具体的で、読むだけでひととおり山を歩いた気になります。

左の板から引きます。
大倉岳は、標高六〇〇m。春の花の季節、秋の紅葉の頃と変化に富んだ風情があり、日帰り家族登山に適した山です。
ここ登山口から、遊歩道を四十分ほど歩くと水飲み場のある休憩地があります。さらに十五分で水芭蕉群生地への分岐点にたどりつきます。そこから五分、大倉岳に抱かれた水芭蕉の群生地が目の前に現れます。淡い緑色の葉と白い花弁が、周りの山々に溶けこみ、美しい風景をつくりだしています。(四月中旬から下旬が見ごろです)
分岐点から十五分山腹を進むと、キジの恩返しの伝説が残る仏峠にたどり着きます。
大倉岳山頂までは、一面熊笹に覆われています。仏峠から山頂までは、約四十五分、広場があり雄大な白山、日本海が一望できます。
四十分、十五分、五分、十五分、四十五分。ぜんぶ足すと二時間ちょうどです。帰りは四十分ほどで大倉岳高原スキー場へ下りて、スキー場から登山口までが十五分。板はそのあとを「春はつつじ、秋は紅葉、ゲレンデは、コスモスが満開になり市民の憩いの場となります」と続けます。
右の板は山の呼び名の話でした。大倉嶽は阿手(鳥越村)では金山と呼ばれ、山は四つに分かれていて、東北の一部が尾小屋に属する。大正十二年頃から五百峠・阿手坂付近にスキー場があり、尾小屋高原スキー場(現・大倉岳高原スキー場)と言われ、北陸三県スキー場の発祥の地として歴史がある——と、西尾村史から引いてあります。

もう一枚、絵の案内図もあります。こちらには数字が入っていました。大倉岳頂上 650.7m、作事嶺 560.0m。遊歩道は一周約8kmで、消費カロリーが男子平均1,200kcal・女子平均1,000kcal。頂上までは3.8kmで、男子630kcal・女子540kcal。カロリーまで書いてある登山案内図はあまり見ません。
地図に並ぶ地点の名前もいいです。ミズナラ・コナラ林、モミジの森、夏椿群落地、水ばしょう自生地、ほとけ峠、クマザサ群生地、避難小屋、製錬所の大煙突、尾小屋マインロード、芝広場。山と鉱山の跡がひとつの地図に同居しています。

登山口から二百八十九メートル
この日は登りませんでした。夕方だったのと、川を見に行くつもりだったからです。写真の位置から測ると、登山口から遊歩道を入ったのは二百八十九メートル。板が書いていた最初の休憩地まで四十分の、たぶん十分の一くらいのところで引き返しています。それでも二ついいものに会いました。
ひとつめは、コンクリートの壁にとまっていたカマキリ。細長い体を壁に貼りつけて、じっと動きません。灰色の壁に茶色の一本線が引いてあるように見えました。

ふたつめはキノコです。シダとササのあいだの落ち葉の上に、薄い茶色のものがひとつ。傘のふちが内側に巻きこんで、しわが寄っています。名前はわかりません(キノコは見た目だけでは決められないので、採らずに置いてきました)。

石切り場は、停められなかった
尾小屋を出たあと、石切り場のほうにも寄ろうとしました。結果はこうです。
石切り場みたいなところもなんか行ったんだけど、駐車場がなくて。結構これ観光スポットとして楽しそうなんだけど、それじゃないから行けないんでね。残念だなぁ。
まあでも本当に、車で走るだけでも結構すごい景色が見れるので、おすすめではあるかもしれません。
どこの石切り場かは特定できていません(写真が残っていないので、観音下か滝ヶ原のものだと思いますが確証がありません)。小松の石切り場については、この特集の第3弾で西山石切り場跡を歩いた回があります。
「車で走るだけでもすごい景色」というのは、このあとの道でそのとおりになりました。
杉のあいだを、濁った川が流れていた
尾小屋から北へ下りて、波佐谷町に出ました。舗装は残っているけれど落ち枝だらけの道が、杉林のなかへ続いています。両側とも杉。見上げるほど背の高い木ばかりで、道の上だけが空いています。

走りながら考えていたのは、だいたいこんなことでした。
なんかすっげー道に来てしまったんだけど、これが正しい道っぽい。一応Googleマップを事前につけてた感じはこうなってるんで、この通りに行くんだけども。倒木とかがあったら結構詰む気がするから、気をつけないとなと思ってね。
であと、普通になんかちょっと怖い。なんか霊的な……霊的でもないけど、なんかちょっと怖いなーっていう印象があって。なんで、ちょっと空気涼しいからそっと窓開けてたんだけど、ちょっと今閉めたいなって思っちゃって閉めちゃったわけね。なんか、それぐらいなんかちょっと不気味な感じを覚えます。
これまだ夕方の四時ぐらいなんで全然まだ明るいけど、これ日が暮れたら、ちょっと僕は来たくないなっていうような感じの道かもしれん。石とかあるし、パンクしたりとかしたらね、終わるなぁと思って。
実際の時刻は五時すぎでした。体感が一時間ずれるくらい、まだ明るかったということです。ただ「日が暮れたら来たくない」は本当で、両側から杉がかぶさってくるので、時間より先に暗くなります。落ちた枝と石は写真のとおりで、ここは飛ばして走る道ではありません。
道ばたに車を停めて崖の下をのぞくと、杉林のあいだを川が流れています。時刻は五時すぎ。ここの水は白っぽく濁った緑色でした。

足元のコンクリートの角に苔が厚くのっていて、上に落ち葉が溜まっています。川面まではけっこうな高さがあって、降りる道はありません。見るだけの場所です。

このあと県道161号に入って、南へ、川をさかのぼる向きに走りました。
赤瀬ダムを過ぎて、2.9km
赤瀬ダムを過ぎて2.9kmほど進むと、右手に広場の入口があります。赤瀬ダム自由広場です。標高は約126m。駐車場はゆるやかな坂で、かなり広くとってあります。
車を停めて最初に目に入るのが、木の板を張った建物。トイレです。水洗で、身体障害者用もあります。案内標識が一本、ぽつんと立っていました。奥に見えているのは道路の橋です。

そこから舗装路を進むと、視界がひらけます。芝生が奥までずっと続いていて、その真ん中に赤い屋根の東屋がひとつ。両側は杉と広葉樹の斜面で、正面の谷の奥に山が重なって見えます。人はいませんでした。
とにかく広い、というのが最初の感想でした。名前を知らずに来たので、このときはまだ頭のなかで「自由公園みたいなところ」と呼んでいます。

芝生のわきには藤棚があって、下にベンチが置かれています。柱も梁も木で、灰色になるまで日に灼けていました。その脇に赤い禁止の標識。

近寄って読むと「火気使用禁止 たき火・バーベキュー・花火など」。差出人は石川県赤瀬ダム管理事務所でした。ここが誰の管理下にあるかが、この一枚でわかります。芝生も東屋も藤棚も、河川の施設として置かれているものです。
「親水広場かいだん」と「親水広場スロープ」
芝生の川側に、案内板が二枚あります。どちらも石川県が立てたもので、魚とトンボの絵に「かわをきれいにしましょう/ゴミはもちかえりましょう」と添えてあります。
一枚は親水広場かいだん。丸太の柵の切れ目から、階段が川へ下りています。

もう一枚は親水広場スロープ。こちらは階段ではなく、舗装された坂です。芝生から川原まで段差なしでつながっているので、荷物があっても、子どもでも、そのまま降りられます。

「川が見える公園」はいくらでもありますが、「川に降りられる公園」はそれほど多くありません。ここは降りられます。名前まで付けて、二とおり用意してある。
川原に、砂が溜まっていた
スロープを下りると、いきなり川です。水は浅くて、底の石が一つずつ数えられます。向こう岸は石積みの護岸で、上に草がかぶさっていました。手前は瀬になっていて、白く泡立ちながら流れていきます。

おもしろかったのは水の色です。浅いところは透明で、深いところだけが緑になります。夕方の光が入ると、その緑が明るいまま残りました。

そして砂です。川原の一部が、石ではなく細かい砂で覆われていました。海の砂浜ほど白くはなくて、灰色がかった茶色。踏むと足跡がはっきり残ります。

川の流れが緩むところに砂が落ちて、州になったのだと思います。上流から運ばれてきた粒が、ここで一度止まる。石の川原にぽつんと砂の面ができているのは、見た目にもわかりやすい変化でした。

石の名前は、わからなかった
そのあと、石を拾いはじめました。ここからしばらく、水の音と石がぶつかる音しかしません。ときどき口から出るのも、ほとんど同じことです。
石探しをしてたんだけど、これなんだと思う。
……めっちゃ硬そうです。
……これなんだろう。
……これ、何だろう。
結論から書くと、名前はわかりませんでした。持ち帰ってもいないので、いまさら確かめようもありません。
ただ、川原に降りるとわかりますが、ここは石の色がそろっていません。白、灰色、うすい緑、赤茶。角が取れて丸くなったものと、まだ角ばっているものが混ざっています。上流の山から、別々のところの石が別々の速さで流れてきて、ここでいっしょになっているということです。

石の名前がわかる人と来たら、たぶんここで一時間は動けません。わからないままでも、じゅうぶん一時間は動けませんでした。
この川は、梯川といいます
石を拾いながら、わたしはこの川を「赤瀬川」と呼んでいました。赤瀬ダムを目印に来たので、そのまま川の名前だと思いこんでいたわけです。
ですが、この川に「赤瀬川」という名前はありません。梯(かけはし)川です。小松市を貫いて日本海に注ぐ一級河川で、上流のこのあたりは地元で大杉谷川と呼ばれます。大日山を源に、杉の谷を抜けて里山を通り、安宅の河口まで下ります。赤瀬は、この川が通る町の名前でした。
ヤマメ、イワナ、アユがいる川です。上流部には大杉谷川漁業協同組合があって、渓流釣りの対象になっています。この日、川の中には誰もいませんでしたが、シーズンや時間帯によっては人が入っているはずです。
広場の名前になっている赤瀬ダムは、ここから下流にあります。梯川水系梯川、小松市赤瀬町。重力式コンクリートダムで堤高38.0m、堤頂長180.0m、総貯水容量は600万m³。昭和43年4月に着工して昭和54年(1979年)3月に完成しました。目的は洪水調節ひとつです。発電も水道もしていません。小松の平野を水から守るためだけに置かれたダムということになります。
そのダムの下流には荒俣峡があります。大杉谷川の中流でいちばん谷が狭まったところで、「加能八景」のひとつ。奇岩が並んで水が澄み、紅葉は11月上旬から中旬が見ごろです。住所は小松市赤瀬町で、駐車場は5台。同じ川の、まったく違う顔です。自由広場が「広くて明るい」なら、荒俣峡は「狭くて深い」。
移動のメモ
尾小屋から波佐谷を経由して、県道161号で川をさかのぼりました。距離と時間はOSRM(道路データ)の算出値、いちばん右は写真の撮影時刻の差から出したこの日の実測です。停まって撮っている時間が入るので、実測のほうが長くなります。尾小屋から波佐谷の33分には、石切り場に寄ろうとして停められなかった寄り道が入っています。
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ポッポ汽車展示館→大倉岳遊歩道 登山口約20m距離徒歩1分目安1分この日の実測
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登山口→遊歩道を289m入って引き返す約0.6km距離徒歩12分目安36分この日の実測
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尾小屋町→波佐谷町12.5km距離車11分目安33分この日の実測
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波佐谷町→赤瀬ダム自由広場10.0km距離車12分目安18分この日の実測
尾小屋と大杉は、地図の上では隣の谷です。道路データ上の最短は約18.5km・17分。ただしこの日は北の波佐谷側へいったん下りて、県道161号に入り直して南へ戻りました。合計22.5kmで、四キロほど遠回りしたことになります。そのぶん川を二回見られたので、損ではありません。
ここへの経路↗Googleマップで開く↗赤瀬ダム自由広場(石川県小松市・県道161号沿い)
行くなら
- 場所石川県小松市。県道161号を赤瀬ダムから約2.9km、上流側の右手
- 料金無料。入口にゲートはありません
- 駐車場あり。ゆるやかな坂の広い駐車場です
- トイレあり。水洗、身体障害者用あり。広場の入口にあります
- 設備芝生、東屋1か所、藤棚とベンチ多数、川へ下りる階段とスロープ
- 水場ありません。飲み水は持って行ってください
- 火気使用禁止です。たき火・バーベキュー・花火はできません(石川県赤瀬ダム管理事務所の掲示)
- 行き帰りの道波佐谷側から入ると、杉林の細い道を通ります。落ち枝と石が転がっているので、飛ばさずに。暗くなると一気に見通しが悪くなるので、明るいうちに抜けるのがおすすめです
- 川に入るならスロープからそのまま川原に出られます。瀬は流れが速いので、子どもから目を離さないでください。雨のあとや上流に降っているときは、水位が上がることがあります
- あわせてポッポ汽車展示館(無料・照明9〜17時)、石川県立尾小屋鉱山資料館(大人500円・高校生以下無料・水曜休・12/1〜3/24は冬期休館)、大倉岳遊歩道の登山口、下流の荒俣峡(紅葉は11月上旬〜中旬)
- キャンプ・宿泊この日、現地に可否の掲示は見つけられませんでした。泊まりで使うつもりなら、赤瀬ダム管理事務所(0761-46-1314)に確認してください
おすすめは夕方です。この日は五時二十三分に着いて、二十六分にはもう砂の上にいました。西日が谷に入るので、水の緑が明るいまま見えます。人がいないのも、たぶんこの時間だからです。
出典:現地の案内板(「大倉岳遊歩道」「西尾八景 コスモス咲く 大倉岳」大倉岳遊歩道案内図/平成11年3月・小松市・西尾元気の里推進協議会、「親水広場かいだん」「親水広場スロープ」「火気使用禁止」石川県・石川県赤瀬ダム管理事務所)、石川県「赤瀬ダム」「赤瀬ダム管理事務所」、小松市「ポッポ汽車展示館概要」、石川県立尾小屋鉱山資料館 利用案内、こまつ観光ナビ「荒俣峡」、大杉谷川漁業協同組合、旅んちゅ屋(赤瀬ダム自由広場)。位置は写真のEXIF GPSと国土地理院の逆ジオコーディングによります。引用は当日その場で口にしていたことで、言い直しは読めるように整理しました。
取材日:2026年9月10日(木)夕方。写真はすべてこの日に撮影したものです。
SERIES / 小松の山あい
- 01十二ヶ滝は、なぜ十二筋なのか
- 02 ── 近日公開苔の里で、10種の苔を見分ける
- 03西山石切り場跡で、滝ヶ原石を見分ける
- 04 ── この記事赤瀬ダム自由広場は、川に降りられる芝生だった
